2013/03/18
日本医師会雑誌(2013.2)に甲状腺疾患の特集が組まれました。筆者の経験も加えてまとめてみました。
まず甲状腺機能亢進症の話です。筆者の所属していた医局(北海道大学第3内科)では刑務所の医務室へ医局員を派遣しておりました。聞いた話ですが、収容者の中に甲状腺機能亢進症(バセドー病)の患者がいて、通常の服薬量では検査値が正常化せず5割ほど薬量を増量してやっと正常化傾向になった、ということです。甲状腺機能亢進症では神経過敏で落ち着きがなくなるなどの症状が出現することがあり、この収容者が刑務所に入る原因になった可能性もありえると思われます。もう1つ、筆者の勤務していた某民間病院の経験です。この病院にはいわゆるトラブルメーカー、他科の医師と衝突を繰り返していた問題医師がおりました。この医師が、あるとき町で飲酒後に突然足に力が入らなくなったということで、検査を行ったところ甲状腺機能亢進症が判明したということです。この脱力は飲酒、ストレスなどを誘因として男性バセドー病患者の10%にみられる周期性四肢麻痺という病態でした。なおこの医師が治療後に性格が穏やかになったかは確認しておりませんが、甲状腺機能亢進が問題医師になった一因であろうと推測しております。
甲状腺機能低下症では、潜在性甲状腺機能低下症(血中甲状腺ホルモン値が正常範囲内で、下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン値のみ高い)が注目され、心血管系イベントのリスク因子となることが多数報告されています。
当院でも、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの古典的心血管系イベントのリスク因子を持たない60代女性に高度の頚動脈硬化を認め、潜在性甲状腺機能低下が判明した症例を経験しています。
なお過剰なヨード摂取により甲状腺が抑制されることがあり、ヨード含有うがい薬(イソジン)、ヨード添加卵や海藻類(特に根昆布)に含まれるヨードで甲状腺機能異常がみられることがありますので注意が必要です。
犯罪者やトラブルメーカーにならないために、また動脈硬化のリスク因子を早期にみつけるために、また甲状腺機能低下は認知症やうつ病、学業の低下の原因となりえますので、若年からの数年毎の定期的な甲状腺機能検査をお勧めします。