2013/05/30
日本内科学会雑誌(2013.4月)に「糖尿病と関連する内科疾患」の特集が組まれました。その中から「認知症・うつ」(山田祐一郎)をまとめてみました。
糖尿病では合併症として、大血管あるいは細小血管の動脈硬化性病変が生じるため、糖尿病に合併する認知症は脳血管性と考えられていましたが、アルツハイマー型認知症も糖尿病に伴って増加することがわかってきました。
たとえば、久山町研究における経口糖負荷試験後15年間の追跡で、糖尿病群は耐糖能正常群に比べ、アルツハイマー型認知症発症は2.05倍、血管性認知症発症も1.82倍と増加傾向を示しました。
糖尿病において、空腹時インスリン値の高いことや、インスリン抵抗性の指標であるHOMA-IR指数(空腹時血糖値とインスリン値から計算します)の高いことが、有意に老人班の量が増加する危険因子であることが報告され、インスリン抵抗性・高インスリン血症がアルツハイマー型認知症の発症・進展に関連することが示唆されました。
またアルツハイマー型認知症では脳におけるインスリンシグナルに関与する分子の発現が顕著に低下していることが示されています。インスリン作用不足はアミロイドβ産生増加やクリアランス低下に関与することが示唆されています。
このように、糖尿病に伴うインスリン抵抗性・高インスリン血症、インスリン作用不足がアルツハイマー型認知症の発症、進展に関与していると考えられています。また糖尿病では大血管や細小血管の動脈硬化が生じ、脳血管性認知症にも関与していることが考えられています。したがって、アルツハイマー型・脳血管性認知症の両者の発症に糖尿病が大きく関与しているといえます。
なお、重篤な低血糖発作の既往が認知機能低下と相関することが示されています。したがって、高齢者糖尿病では空腹時血糖値140mg/dlやHbA1c(NGSP値)7.4%を治療目標とすべきと考えられています。なお、英国の研究で最も死亡率の低いHbA1c値は7.5%であり、これより低くても高くても死亡リスクが増加することが報告されています。高齢者においては、低血糖に伴う症状を自覚しにくく、交感神経系の活性化や凝固能の亢進などにより心血管イベントの発症を惹起する可能性だけでなく、認知機能低下の危険因子にもなります。
糖尿病の治療薬に関しましては、チアゾリジン薬(アクトス)がアミロイドβのクリアランスを改善することにより認知機能が改善する可能性が示されています。チアゾリジン薬は糖尿病と認知機能に関わる多くの病態を改善することが期待されています。
うつ病に関しましては、うつ症状のスコアが悪いほど糖尿病の発症リスクが高くなり、逆に糖尿病があるとうつ病の発症リスクが高くなることが報告されています。
平成19年に行われた国民健康・栄養調査では、「糖尿病が強く疑われる人」に「糖尿病の可能性を否定できない人」を加えると、2210万に達します。高齢になるほど糖尿病が増えるとされ、今後ますます高齢者の糖尿病が増えることが予想されます。したがって、糖尿病を原因とする認知症の増加も危惧されます。糖尿病にならないような生活習慣、糖尿病の適切な治療が重要であると思われます。