2013/11/12
運動器疾患はQOLを大きく損ねるために、その予防は健康長寿のために重要な課題となります。すなわち骨の老化は骨粗鬆症に至り、関節の老化は変形性関節症などに至り、共に健康長寿を脅かします。筋肉の老化はサルコペニアと呼ばれ、最近特に注目されている病態です。日本抗加齢医学会雑誌(2013.No4)に「サルコペニアとアンチエイジング」という特集が組まれましたのでまとめてみました。
サルコペニア(加齢性筋肉減少症)は筋肉の老化ともいえるもので、高齢者の活動性低下の一要因として挙げられています。語源はギリシャ語でサルコ(=肉)、ペニア(=欠乏)から来ています。
サルコペニアは糖尿病、高血圧や骨粗鬆症などと同様に多因子疾患であると考えられており、遺伝的素因と生活習慣や加齢などが複雑に影響しあって発症する疾患であると推定されています。
サルコペニアの臨床診断は、骨格筋量と筋力および身体運動能力の3つの定量的な指標が用いられます。骨格筋量の減少は必須項目であり、二重エネルギーX線吸収法(骨粗鬆症診断で汎用)、生体インピーダンス法(高価でなく扱いやすく再現性も高い)がありますが、最も骨格筋肉量を高精度に測定できる方法は、CTとMRIであるとされています。身体能力は歩行速度が用いられ、スクリーニングのカットオフ値は0.8m/秒とされています。
サルコペニアの予防・対処法は以下のようなものが挙げられています。
レジスタンストレーニングの筋肉量増加の効果は、負荷強度が最大負荷量の80%以上、セット数が2~3セット、回数が1セットにつき8~12回、頻度が週3回、期間が3ヶ月以上、が推奨されており、運動強度が中等度の場合は無効とされます。(かなりのハードトレーニングが必要といえます。)
レジスタンストレーニングと蛋白質・アミノ酸補給併用が、原発性サルコペニアの予防と治療に最も効果的であるとされています。
有酸素運動には、抗炎症作用、インスリン抵抗性の改善、骨格筋のミトコンドリア増加といった効果があります。このため、有酸素運動もサルコペニア予防に有用な可能性があります。すなわち半年間以上の歩行、ジョギング、間欠的走行は、高齢者の下肢筋肉量を増加させる可能性があります。
高齢者では蛋白質摂取量が少ないと筋肉量減少を認めやすく、サルコペニアの高齢者に対する栄養補給は、高齢者の筋肉量と筋力を改善させます。
血中の分岐鎖アミノ酸濃度が高いと、骨格筋蛋白質への刺激効果も高くなります。また糖質を蛋白質と同時に摂取すると、摂取した蛋白質の利用効率が高まり、筋蛋白質合成を高めます。
ビタミンD欠乏症はサルコペニアや筋力低下の原因の一つであり、ビタミンD投与によって改善します。ビタミンD血中濃度と筋肉量に関連を認めるという報告があり、血中25(OH)D濃度が25nmol/L未満の場合にビタミンD投与による筋力改善が期待できます。
魚油に含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸(EPA、DHAなど)には抗炎症作用があり、サルコペニアに有用な可能性があります。高齢女性で筋力増強訓練に魚油を併用すると、筋力増強訓練単独より筋力と身体機能がより改善します。
加齢に伴う筋力低下の要因として、加齢に伴うアンドロゲンや成長ホルモンの低下の関与が示唆(アスリートにおけるドーピングの問題でもよく知られている)されています。
加齢男性の筋力が血中テストステロン値と正相関することが示されています。高齢男性に投与されたアンドロゲンのサルコペニア改善作用については中等度に有効とされます。内因性アンドロゲンの低下により、筋蛋白分解の亢進と筋蛋白同化の障害という両方の機序が示唆されており、テストステロンはこれらの機序を代償すると考えられます。
運動は成長ホルモン分泌上昇効果を有し、一方、成長ホルモンには筋蛋白の合成を促進し、筋線維を肥厚させる作用があります。
当院へも、サルコペニアが疑われる、高齢になるに従い体重が漸減し下肢の筋肉量が明らかに衰えている患者さんが通院しております。分枝鎖アミノ酸製剤や(骨粗鬆症の治療としての)ビタミンD3製剤などを服用してもらい、筋トレや散歩を励行していますが、なかなか改善させるのは困難なようです。
サルコペニアを防止するために、(サルコペニアが出現する以前の)中年以降の十分な蛋白質摂取や、定期的な有酸素運動と筋トレが必要であると思われます。