2013/12/12
日本抗加齢協会誌である「医と食」(2013、June)に「見直される米と味噌の栄養」が特集され、味噌についての興味ある論文(渡邊敦光)を見つけましたのでまとめてみました。
長崎の原爆被害の際、爆心に近い病院で被爆した人たちは秋月辰一郎医師の下、奇跡的に死亡者0で生き延びた、その鍵は備蓄されていた味噌、玄米を食べたことにあったといわれています。マウスを用いた実験では、1週間前から味噌を与えX線全身照射を行うと、小腸腺窩が再生を亢進することが証明され、この放射線防御作用は照射直後に味噌を与えても効果がありません。味噌の発酵期間による影響を検討すると、発酵初期よりも180日間発酵・熟成味噌の方がより強力です。また2年熟成までは効果を認めますが、5年熟成では効果は減少し、10年味噌では全く効果を認めませんでした。放射線防御作用として味噌が力を発揮するのは6ヶ月から2年くらいの発酵・熟成により有効成分が出現すると考えられます。
長野県は長寿日本一の県ですが、実は味噌の消費量も日本一です。長寿日本一となった原因のひとつとして有名な減塩運動があり、もう一つは味噌を含めた発酵食品を多く摂っていることが挙げられます。味噌汁に含まれる塩分は1杯約1g程度でそれほど多くなく、そのため味噌汁の食塩寄与率は5%程度で減塩指導には意味がないとされています。また味噌摂取量と高血圧との相関を示す報告は見当たりません。さらに具材からK、Mg、Caを摂取できるのでミネラルの不足を補い、その血圧降下作用も期待できます。血圧についての疫学的報告として、味噌汁を1日2杯以上摂る人は4年間の追跡で血圧は上昇しない、また味噌汁を3杯飲んでも血圧には影響しない、などがあります。実験報告としては、食塩感受性ラットに味噌に含まれると同じ量の食塩の入った餌を食べさせると血圧は上昇するが、同じ量の塩分が含まれている味噌を食べさせた群では血圧が上昇しない、というものがあります。
脳卒中に対しても、同じ塩分量の味噌餌は脳卒中の発生が遅延することがラットで報告されています。
味噌汁を多く摂る人には胃癌の発生率が少ないことが疫学的に証明されています。ラットに発癌物質を投与しながら味噌を与えると、味噌に含まれる同じ濃度の純食塩を与えた群に比べて胃腫瘍の発生が減少します。この場合も180日熟成味噌に抑制作用が強いということです。
その他の味噌の効能として、1日3杯以上の味噌汁を摂る人には乳癌の発生が少ない(国立がんセンター)、味噌汁や大豆産物を多く摂っている被爆者には肝臓癌が少ない、肺腺癌は発酵初期の味噌に比べて180日熟成味噌に発生が少ない(動物実験)、大腸癌の発生抑制、などが報告されています。なお、その多くの効果は熟成度180日の味噌で示されています。
上述のように、味噌の中の塩分はNaCl単独とは異なる作用をしていることが示唆されます。日本の伝統食である味噌(大宝律令にその記載があるそうです)の摂食が勧められます