2013/06/14
日本内科学会雑誌(2013 . 4月)に「糖尿病と関連する内科疾患」が特集され、その中の「男性更年期障害」(堀江重郎)が参考になると思われましたのでまとめてみました。なお当院ブログ掲載の「テストステロンとLOH症候群」も御参照ください。
テストステロンは男性ホルモンと呼ばれ、性衝動の発来と精子形成に必須です。成人においては、テストステロンは筋肉の量と強度を保つのに必要であり、また内臓脂肪を減らします。テストステロンは集中力やリスクを取る判断をすることなどの高次精神機能にも関係します。
加齢に伴いテストステロン値が低下することによる症候をlate onset hypogonadism(LOH症候群、加齢性腺機能低下症)と呼び、50代、60代、70代、80代において、12、20、30、および50%がLOH症候群に該当するとされ、男性に極めて多い疾患といえます。
LOH症候群は、原因により精巣性と中枢性(下垂体から分泌され、精巣を刺激するLH、FSHというホルモンの低下)に分類されますが、臨床上よく見られるのは、LH、FSHが正常範囲にありテストステロンが低い場合です。
LOH症候群は、うつ、性機能低下(早朝勃起現象の消失・勃起不全{ED}・性欲低下)、認知機能低下、骨粗鬆症、心血管疾患、内臓脂肪の増加、インスリン抵抗性の悪化、HDL(善玉コレステロール)の低下、LDL(悪玉コレステロール)上昇に関係し、メタボリック症候群のリスクファクターになります。また心血管疾患、糖尿病、呼吸器疾患のリスクを高めます。
LOH症候群は糖尿病患者およびメタボリック症候群に高頻度にみられます。
テストステロンは活性酸素による酸化ストレスを軽減する作用があることから、テストステロンの低下が血管の健康を障害することが考えられています。
LOH症候群の診断ですが、血中フリーテストステロン値8pg/ml以下が治療介入の基準値とされています。
LOH症候群に対する治療としましては、ホルモン補充療法(ART)が一般的で日本でも保険適応となっています。通常注射剤testosterone enanthateを2週間ごとに筋注することで臨床効果が得られます。
ARTにより、筋肉量、筋力、骨密度、血清脂質プロフィール、インスリン感受性、性欲、健康感の改善が認められます。勃起不全につきましてはPDE5阻害薬(バイアグラなど)の作用を増強します。
ARTの副作用として前立腺癌が生じる危険が危惧されていましたが、プラセボ群とホルモン補充群で前立腺癌が発見される頻度は変わらないと報告されています。ただしテストステロン値が低い患者ではPSAが比較的低値にも関わらず悪性度が高い前立腺癌が高頻度にみられるとされ、PSA値が2.0ng/ml以上であれば前立腺癌除外のため、ART開始前に泌尿器科医の診察を受けることが勧められています。
健常者においてテストステロン値が低値であること自体が、疾患リスクや寿命に関する独立した危険因子であるかどうかについては、必ずしも意見の一致はみられていないようですが、テストステロン低値は、内頚動脈の内膜肥厚、下肢末梢動脈・大動脈の動脈硬化性疾患に関連することから、テストステロン値は加齢に伴う生活習慣病の疾患バイオマーカーになる可能性があるとされています。
当院ではうつ病、HDLコレステロール低値、糖尿病、糖負荷試験によりインスリン抵抗性を認める男性患者様のフリーテストステロン値を測定していますが、低下を認める症例が高頻度にみられます。
当院では、テストステロン値を回復させるために、まず食事の改善・運動を勧め、漢方薬(特にツムラ12)を処方して経過をみて、改善がみられない場合にARTを考慮しています。