2014/01/25
日本抗加齢医学会雑誌(2013.No6)に「エビデンスに基づいたがん予防」が特集されました。その中の「体形・身体活動とがん」(溝上哲也)をまとめてみました。
なお、論文では世界のエビデンスと日本での研究が分けて述べられていますが、以下は日本の研究のみをまとめたものです。
肥満
全がんでは、男性では肥満よりもむしろ痩せに伴う癌リスクの上昇が顕著です。BMI23~25に比べて、19未満、19以上21未満、21以上23未満の癌死亡の相対危険は、1.44、1.23、1.10でした。ただし追跡開始5年以内の死亡を除いた解析では、痩せた群でのリスク上昇の度合いが若干低下したのに対し、肥満者の相対危険は1.29と有意に上昇しました。女性においては有意なリスク上昇はBMI30以上の肥満者のみに認め、痩せに伴うリスク上昇は認めませんでした。
大腸癌については、男女ともBMIが25を超えると大腸癌リスクが上昇し始め、BMI23~25に比べて30以上の相対危険度は男性1.5、女性1.3で、肥満との関連は、女性より男性で、また直腸より結腸ではっきりしていました。
肥満が大腸癌を引き起こすメカニズムとしましては、腫瘍増殖作用や抗アポトーシス作用を有するインスリンやインスリン様成長因子(IGF)が過剰に分泌される、あるいはこれらの生物学的利用能が上昇することによる、という「内臓脂肪-インスリン仮説」が有力です。このことは糖尿病患者における大腸癌のリスク上昇によっても支持されます。
乳癌では、追跡開始時の肥満度およびその後の体重変化については、いずれの体格指標とも閉経後乳癌のリスク増加が観察されました。すなわち、追跡開始時のBMIが5増加するごとにリスクが31%高まり、その後のBMI変化が5増加するごとにリスクは32%高まりました。なお、閉経前乳癌ではそのような関連は認めませんでした。
肝癌では、BMI25以上の肥満者をそれ以下の者に比べた相対危険度は1.7で、肥満が肝癌のリスクを高めることは「ほぼ確実」と判定されています。
身体活動
全がんリスクとの関連の分析では、活動レベルが最も低い群に比べて最も高い群のハザード比は男性0.89、女性0.84と統計学的に有意に低下していました。部位別では、男性では結腸、肝臓、膵臓で、女性では胃でリスクが低下していました。
大腸癌では、男性において身体活動の増加に伴う結腸癌リスクの低下を認め、特に近位結腸(上行・横行結腸)でのリスク低下が顕著でした。
乳癌では、毎日1時間以上歩き、かつ週1時間以上運動する最も活発な群は、いずれにも該当しない不活発な群に比べ、乳癌リスクは55%低下していました。
肥満・身体活動とがんリスクとの関連を支持する多数の疫学的証拠がありますが、痩せすぎががんのリスクを上げることにも注意を払う必要があります。
体重を適正範囲に維持することや日常生活における身体活動を高めることががん予防策として推奨されます。