2013/07/22
HDL-C(いわゆる善玉コレステロール)濃度は、冠動脈疾患(心筋梗塞など)の独立した危険因子であり、メタボリック症候群の診断基準にも含まれています。しかし実地臨床では、生活習慣の改善(有酸素運動、野菜摂取)や服薬によっても十分な改善が得られず、対応に苦慮することがまれではありません。
医学雑誌のmedicina(2013.6月)に「最新の動脈硬化診療」が特集され、HDL-Cについて「低HDL-C血症への対策」(高田耕平他)、「dysfunctional HDL」(小松知広他)の2つの論文が掲載されていましたのでまとめてみました。
また、当診療所での最近の経験で、低HDL-C血症の男性に対しフリーテストステロン値を測定しましたところ、大半の患者様が低値を示しましたので、この方面からの当院での試みも述べてみました。
血中HDL-C濃度は冠動脈疾患発症と逆相関し、血中HDL-Cが低いと冠動脈疾患発症のリスクが上昇し、高いとそのリスクが軽減します。1mg/dlのHDL-Cの増加により2~3%の冠動脈疾患リスク低下という負の相関関係が報告されています。
HDLには①コレステロール逆転送系、②抗血栓作用、③抗酸化作用(酸化LDLの抑制など)、④抗炎症作用、⑤血管内皮機能改善作用(一酸化窒素産生)、⑥抗アポトーシス作用など、さまざまな抗動脈硬化作用を有することが知られています。特に、①の末梢の余剰なコレステロールを肝臓に戻し、最終的には糞便として体外に排出する作用は、HDLの抗動脈硬化作用として最も重要な機能であると考えられています。
また、最近HDL-Cは量だけでなく質が問題であることが報告され、冠動脈疾患、喫煙、糖尿病、関節リウマチなどの炎症性疾患等ではHDL機能が低下していることが知られています。
低HDL-C血症をきたす原因として、喫煙、肥満、慢性腎臓病、ネフローゼ症候群、甲状腺機能低下症などが知られていますが、中でも近年増加しているのが、インスリン抵抗性を基盤とした2型糖尿病や、メタボリックシンドロームに伴う高中性脂肪血症を併発した低HDL-C血症です。インスリンの作用低下時には脂肪細胞における脂肪分解が促進し、血中に遊離脂肪酸が放出され、それが肝臓での中性脂肪(TG)産生亢進をもたらし、さらにインスリン作用不足によりTG分解が抑制され、血中TG-richリポ蛋白(カイロミクロンやVLDL)の増加とHDL産生の減少へとつながります。
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版では、脂質異常症の診断基準の1つに低HDL-C(40mg/dl)が含まれており、その管理目標は40mg/dl以上に設定されています。
HDL-Cを増加させる手段として生活習慣への介入が有効で、①禁煙、②不飽和脂肪酸やn-6系多価不飽和脂肪酸の摂取を避ける、③青魚に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸を積極的に摂取する、④炭水化物の過剰摂取を避ける、⑤有酸素運動を行う(HDL-Cは運動時間と正の相関関係)、などが挙げられます。
HDL-Cを増加させる薬剤として、①スタチン(HDL-Cを5~10%増加させる。ただしアトルバスタチン〔リピトール〕はHDL-Cを低下させる)、②フィブラート系(35~45%のHDL-C上昇作用)、③EPA〔エパデール〕(わずかにHDL-Cを上昇させる)、④エゼチミブ〔ゼチーア〕(スタチンとの併用でHDL-Cは8~9%増加)、が知られています。
当院ホームページのアンチエイジングブログに「テストステロン(男性ホルモン)とLOH症候群(男性更年期)」が掲載されていますが、低HDL-C血症の一因としてテストステロン低値が挙げられています。そこで低HDL-C血症の男性患者様のフリーテストステロン値を測定しましたところ、大半の患者様がテストステロン補充療法の適応とされる8.5pg/ml以下でした。当院では低HDL-C血症の男性患者様に対し、食事・運動療法の他にテストステロン増加作用があるとされる漢方薬を投与し、さらに、前立腺癌の危険がなく、動脈硬化の増悪を認めるなど必要であると判断された場合はテストステロン補充療法(注射あるいは軟膏)を試みています。